南米ペルー中部の遺跡群を調査していた日本の専門家グループらが、約4800年前の神殿とみられる石造建築の遺構を見つけた。同国最古の都市遺構カラル遺跡(紀元前約2600年)と同時期か、それをさかのぼる米大陸最古級の建築遺構の可能性がある。謎の多い中南米の古代文明の起源を解明する手がかりになるとみられ、19日から本格的な調査が始まった。
この遺跡は首都リマの北約100キロにある「チャンカイの谷」の一角にある「シクラス遺跡」。 アンデス山脈から太平洋に流れ込む川の河岸にある。現場は、高さ10メートルほどの建造物とみられる小山が二つ並んでいる。
遺構は昨年8月、ペルーで発掘された土器や織物の展示や調査に当たる天野博物館(リマ)の阪根博・学芸主任と藤澤正視・筑波技術大教授(耐震工学)が、山頂付近にあった盗掘者による幅約4メートル、深さ約8メートルの竪穴から見つけた。内部の断面を調べたところ、アシを袋状に編んで小石を詰めた古代の築造補強材「シクラ」や、木炭片、繊維片などが見つかった。複雑な工法を使い、儀式で使われたとみられる火の跡があること、何度も建設が繰り返されて いるとみられる点などから、神殿など宗教的な施設だった可能性が高いと専門家はみている。
試料6点を日本に持ち帰って放射性炭素の年代測定で調べた結果、シクラ、木炭片のいずれでも最大で「4800年前」を超す計測値が出た。全体では約4800~4100年前(紀元前2800~2100年)と確認された。
天野博物館のペルー人考古学者のワルテル・トソ氏と、日本の考古学や文化人類学、耐震工学などの専門家グループが調査団を組織。ペルー政府から発掘許可を得て19日、本格的な作業に着手した。
調査チームの稲村哲也・愛知県立大教授(文化人類学)によると、遺跡は、断面の様子から南北約50メートル、東西約30メートルの「ピラミッド型の石造神殿のような建築物」とみられる。同じ場所で7、8回、建て替えられた痕跡があるという。
同遺跡の150キロ北にあるカラル遺跡では、過去10年間の発掘調査で、巨石を使った高さ 30メートルを超す神殿や祭祀(さいし)用の広場など30を超す大建築群が見つかっている。
インカ文明(15~16世紀)などアンデス山脈に近い高地で発展した文明を3000年以上 さかのぼる時期に、南米の海岸部でどのような都市文明があったのかは未解明の部分が大きい。日本側は、大貫良夫・東大名誉教授(元東大アンデス考古学調査団長)を学術顧問とし、学際的なメンバーを派遣して、調査に協力する。
<アンデス考古学に詳しい前日本文化人類学会長の加藤泰建・埼玉大教授の話>
組織的な労働力を用いた建築物と見られ、カラル遺跡と共通性が多い。発掘でペルーの海岸部で広範囲に都市的な発展があったことが裏付けられれば、アンデス文明の形成過程の解明に貢献できるだろう。