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私的旅行記

ティカール

スイス人、ドイツ人、フランス人、そして私日本人を乗せた混成部隊のボートは濃密なジャングルに囲まれた川の静寂をけたたましいエンジン音と水しぶきでかき消した。それに併せて何十羽もの水鳥達が真っ白い羽を大きく羽ばたかせながら飛び去っていく。ふと太古の森に迷い込んでしまったような錯覚にとらわれてしまった。

フロンテイラスというフローレスへの幹線道路がある町に着くまでに温泉がわき出る場所、マナティ保護区、ジャングルトレッキングなど立派なクルーズツアー?を消化した。

ここからフローレス(ティカール遺跡への拠点の町)行きのバスをつかまえる事になるのだがグァテマラシティから1日に3?4便しかないバスはフロンテイラスに来るまで6?7時間、当然超満員になっている。運が良ければ座れるかもしれないが立ち席になるのを覚悟の上でないとこの方法はやめた方がいい。ここからフローレスまでは8時間かかるとも12時間かかるとも言えないのだ。おまけに道はでこぼこのがたがた、だいたい目的地に到着する頃にはどのような状態になっているか想像に難くない。とっても楽しいバス旅行が期待できる。

実を言うと予想以上に楽しいバスの旅をしてしまった。うだるような暑さの中1時間ほど道端でドイツ人と一緒にバスを待っていると一体どうやればこんなにポンコツになれるのかと不思議に思ってしまうほどのバスがやってきた。人の話によればもう少しましなバスが来るはずだった。エンジンも地獄の底からうなり声を出しているかのごとくで先が思いやられる。

偶然にも人の入れ替えで1時間ほどで座席をキープする事は出来たが、果たして暗闇の山中で案の定エンジンがヒートし車内は煙で充満した。と思う間もなくぴかぴかと稲光が始まり5分もしない内に近所にどかどか雷が落ち始めたではないか。そして嵐。それも30何年?の今までに経験したことがないぐらい強烈なもので一瞬何が起こったのか分からなかった。バスが吹き飛ばされるのではないかとさえ思えた。当然車内の明かりも消え横殴りの雨がただでさえ風通しのいい窓を突き破って全員びしょぬれ、やれやれと通路に避難したのが運の尽きだった。今日はだめだとあきらめかけて再び自分の席に着こうとしたらシートがない。座席を誰かに取られたというのではなく座席そのものがなくなっていた。残るはフレームの骨組みだけだった。果たしてその座席はバスの下にあった。あったというよりもドライバーがエンジンを直すためにバスの下に潜り込む背もたれとして使われていたのだ。なんと彼はこの暗闇と雷と嵐の中、バスの下で修理するべく孤軍奮闘していたのだ。それが分かった瞬間今までの恐怖心が吹っ飛んだ。とにかく彼のプロ意識に敬意を表したく思った。

2時間ほどであろうか、もう運を天に任せる心境でいたら、エンジンがう ご い た。泥だらけのドライバーに私は自分のタオルを渡した。泥だらけのシートも無事戻ってきた。嵐も通り過ぎ無事フローレス(正式にはサンタエレナ)に到着したのは朝方の4時、フロンテーラスを出てから15時間が経っていた。

ティカール遺跡は雨が降っていた。そして1年中暑い土地のはずがあの嵐の夜以来めっきり冷え込んだ。あの嵐は寒波が入り込んで大気がものすごく不安定になったのがどうも原因だったようだ。

ティカール遺跡は現在のところマヤ最大の遺跡と言われている。その名に恥じず?このティカール遺跡では間違いなくみな迷子になる。巨大すぎるのも原因の一つだがおそらくはジャングルの中に遺跡がそのまま埋もれたままになっているのと道が非常に複雑になっていて獣道に騙されるからだろうと思う。

ただでさえあまり観光客が多いとは言えないこの遺跡はこの雨のせいもあってちょっと奥に入れば遺跡と自分一人との対峙となる。

静寂の中である広場に出た。その場所でほかでは決して感じなかった何か特別な雰囲気を感じた。イマジネーションが自分を過去へ遡らせた。その場所で私はかつてのマヤの民と出会った。

『苔むして泥に埋もれた遺跡群、あなたがたは何故、何世紀もの間そうして沈黙を続けているのですか?何故そのようなかつての生のあかしを私たちにかいま見せるのですか?あなたはそれを望んでいましたか?』

私はその場所が気になり地図で自分の位置を探した。そこには「ムンドペルジード」日本語にすれば「失われた世界」と書かれてあった。

何故そこが失われた世界と呼ばれるようになったのか私には知る由もない。ただそこに行きさえすれば誰もが何となく理解できることだと思う。

第4号神殿はティカール遺跡で1番背が高い神殿だ。ここは一番上まで登る事が出来て景色が最高だが十分気をつけた方がいい。足腰が弱い人はまずやめた方がいい。あと高所恐怖症の人もやめた方がいい。てっぺんには何が起こっても良いように?何故か警備の人が1人常駐している。特に雨上がりなんかはとっても楽しくなる。私もほんのちょ?っとだけ足を滑らせたりなんかした。

ティカール遺跡の良いところは遺跡が生きている事だ。加工されていないありのままの姿で今も静かにジャングルに埋もれている。そして人を古(いにしえ)の世界に誘い込む。

ティカール内にあるジャングルロッジを後にして一路ベリーズ国境を目指した。2台バスを乗り継いですいすいと国境まで来てしまった。私は陸路の国境越えがとても好きだ。なんか移動してるという実感がこみ上げてくるからだ。今まで一体どのくらいこのように国境越えをしただろうかとふと考えた。

歩いて国境越えをしたこと、バスで楽に通過しようとしたら税関で疑われて延々3時間近くも尋問されたこと、あのときは他の乗客に迷惑をかけたなあ。ヒッチハイクでまわっていたときのこと、国境を越えたまでは良かったが10匹ほどの野犬に追いかけられたときのこと、パトカーに何故か乗せられて国境まで連れてきてもらった?時の事など、みなすべて懐かしいものだ。

さあ、ここからはベリーズ、英語圏に入るぞ。